膀胱全摘除術を受けられる患者さんへ

H18.4.18〜

あなたの病気は、膀胱にできた悪性腫瘍で、表面の粘膜から発生した腫瘍が下の層に浸潤しています。尿道からの切除術だけでは不十分で、根治のためには膀胱を全て摘出する手術(膀胱全摘除術)が必要です。

■ 膀胱全摘除術とはどのような手術か

  1. 手術は全身麻酔で行います。術中の麻酔の補助、術後の痛みを和らげるため背中から硬膜外麻酔用のチューブを入れることもあります。
  2. 腹部の正中に臍の上から恥骨の上まで切開します。
  3. 骨盤内のリンパ節を摘出し、転移の有無を調べます。
  4. 尿管を切断し、膀胱に分布している血管を切断して膀胱を摘出します。男性では、前立腺、精嚢も同時に摘出します。患者様によっては会陰部を切開して尿道も摘出することがあります。女性では、尿道、子宮、膣前壁、場合によっては卵巣も同時に摘出します。
  5. 尿道から流れ出る尿を体外に導くために、適切な手術を行います(尿路変更術)。この手術にはいろいろな方法がありますので別に説明します。
  6. 手術操作が終わると腹腔内に管(ドレーン)を入れて創を閉じます。
  7. 手術当日は、酸素吸入、点滴がされます。ベッド上安静で歩行、食事はできません。
  8. 手術翌日から7日目には状態に応じて、飲水、食事、歩行が可能となります。
  9. 術後ドレーンからの液が減少すれば抜きます。
  10. 手術時間や術後の経過は、尿路変更法によって異なりますので、そちらで説明します。

■ 合併症とその対応について

(1) 出血
膀胱周囲には太い血管が多く、ときに出血をきたします。手術前にご自分の血液を保存してこれを手術中に輸血することがあります。これでも血液が足りない場合には他の方の血液を輸血することになります。
(2) 直腸損傷
男性の前立腺の後面は直腸が接しています。前立腺と直腸との間に癒着があってその間をはがす時に直腸に穴があくことがあります。小さな穴の場合にはそのまま閉じて、術後しばらく絶食となりますが、大きな穴の場合や直腸壁がうすい場合には大腸を左下腹部から引き出して人工肛門をつくり一時的に大便をここから出すようします。術後落ち着いたら人工肛門を閉じて手術前の状態に戻ります。まれに手術中直腸損傷が確認できず、術後にわかることがあり、緊急手術が必要となることがあります。
(3) 術後腸閉塞、腹膜炎
腹腔の中で手術操作をしますので、手術直後に腸の動きが悪くなることや、術後に腸が癒着して通過しにくくなることがあります。その都度適切に対処しますが、鼻から管(イレウス管)を入れたり、場合によっては再手術が必要となることがあります。また、術後に腹膜炎が発症し手術が必要となることがまれにあります。
(4) 男性機能障害
男性の膀胱、前立腺後面には勃起神経が左右2本ありますが、手術のときやむをえずとることがあり、その場合には術後に確実に勃起機能が回復するとは限りません。また、勃起が可能になっても射精はできません。
(5) 術後の肺梗塞
おもに足の中で血液が凝固し、これが血液の中を流れて肺の血管を閉塞する、重篤な合併症です。まれな合併症ですが、死に至ることもあります。
(6) 死亡率
この治療による死亡率は1〜3.5%と報告されています。
(7) その他
その他、通常の開腹手術でも起こりうる合併症として、創感染で創が開いたり、筋膜が開いて創ヘルニア(創の部分が飛び出す状態)になったりすることがあります。また、術後性肺炎が発症したり、骨盤内に液体がたまったり、鼠径ヘルニア(脱腸)になったりすることがあります。これらのなかには再手術が必要な場合もあります。

■手術後の追加治療について

膀胱全摘除術は、癌が膀胱にとどまっていると診断された方に対して、癌を完全にとりのぞくことを期待して行う手術です。しかし、すでにリンパ節に転移していたり、細い血管やリンパ管に癌細胞が広がっていることが、術後の組織検査でわかることもあります。このような場合には、術後に再発するおそれが高いので、追加の治療(抗癌剤)をお勧めすることがあります。この抗癌剤治療には約2ヶ月かかります。

■手術以外の治療法について

癌が膀胱の粘膜内にとどまっていると診断された方には、尿道から内視鏡で切除する手術が適切で、患者さんによっては膀胱内に薬剤を注入する治療を行うこともあります。また、粘膜より下の層に浸潤している場合でも、内視鏡手術と動脈内への抗癌剤の投与、さらに放射線治療を組み合わせて行い、膀胱を摘出しない方法もあります。しかし、癌が完全に治る確率は、一般には膀胱全摘除術より低いと考えられています。また、動脈内への抗癌剤治療や放射線治療にはそれぞれ特有の合併症の危険性があります。

年   月   日    担当医                 印

 

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