(腹腔鏡補助下)小切開前立腺全摘術を受けられる患者様へ

H24.4

麻酔:
全身麻酔と硬膜外麻酔(半身麻酔)を併用します。硬膜外麻酔は術後の疼痛緩和にも使われます。
手術時間:
約3〜5時間(麻酔導入・覚醒含めて約4-6時間)
輸血について:

手術直前に自己血を採取して、点滴にて血液を希釈します。手術終了時に自己血を元に戻します(希釈式自己血輸血法)。

手術操作

  1. (傷の大きさ):下腹部を約6-9cm縦切開(場合によってはさらに切開を延長します)
  2. 鼠径(そけい)ヘルニア防止処置:潜在的なヘルニアの有無などを確認し防止のための処置をします。
  3. リンパ節郭清:転移する可能性の高い骨盤内のリンパ節を切除します(省略する場合もあります)。
  4. 前立腺摘除:前立腺を摘除し、残った膀胱と尿道をつなぎ合わせます。
    前立腺の両側にある神経(主に勃起機能に関連します)を残せるかどうかは、最終的に術中の所見で判断します。
    術中に 神経を電気刺激して神経温存の程度を確認する場合があります。
  5. 閉創:尿道に管(カテーテル)を留置して、創を閉じます。また、手術操作部の出血やリンパ液などを体外に出す管(ドレ ーン)も1〜2本留置します。
        *創:傷のことです。

手術後

手術当日 : 点滴や酸素マスクをして手術室から戻ります。
翌日〜翌々日 : 食事や歩行を開始します。
5〜7日目 : 尿道の管を抜き、排尿状態を観察します。7日目に抜糸します。
約10日前後 : 退院です。

術後合併症について

  1. 出血:前立腺周囲は血流の多い場所であり、大量に出血する可能性のある手術です。通常は自己血で充分ですが、場合によっては血液製剤を輸血することがあります。
  2. 感染:創部やお腹の中に細菌などの感染が起こり、高熱が出たり、傷がくっつかない場合があります。化膿止めを使用して、感染予防に努めます。
  3. 痛み:創部に痛みがあります。また、尿道に留置している管は違和感があります適宜痛み止め等を使用し、症状を和らげるようにします。
  4. 吻合不全:何らかの原因で膀胱尿道吻合部の接着が遅れ、尿がもれることがあります。この場合は吻合部の粘膜形成を促すため、尿道カテーテルの留置を数日間延長します。
  5. 尿失禁:尿道の管を抜いた直後は、種々の程度の尿失禁が起こります。ほとんどの場合、術後1〜3ヶ月で生活に支障のない程度にまでよくなります。稀にもれがあまり良くならない方もおられます。特に、予想以上に癌の広がりが大きい場合など、手術後に尿もれが治りにくい可能性が大きくなります。重度尿失禁が続く場合、適切な治療を考えます。
  6. 排尿困難、頻尿:逆に尿が出にくくなることがあります。カテーテル抜去直後の場合は炎症によることが多く、一時的にカテーテルの再留置して炎症の治まるのを待ちます。手術後数ヶ月以降に起こる場合は、吻合部狭窄が考えられます。
    尿道の拡張などの処置が必要になることがあります。手術の影響で頻尿、夜間頻尿が出現したり、軽度増悪したりすることがあります。
  7. 性機能障害:手術直後は勃起障害が起こります。その後の回復状況は神経温存の程度、年齢、術前の勃起能の程度、などで異なります。神経温存が可能であった場合には、バイアグラなどの服用で改善が促進できます。前立腺・精嚢を切除するため、射精の感覚は残りますが精液は出なくなります。また射精の感覚と同時に軽い尿もれが起こることがあります。
  8. 直腸損傷:比較的稀ですが、起こると重大な合併症になることがあります。前立腺のすぐ後ろには直腸があります。癌の広がりや癒着などによっては、直腸を傷つけてしまうことがあります。その場合は修復を行いますが、術後一時的に絶食が続いたり、また一時的に人工肛門になる場合があります。
  9. 肺塞栓:稀ですが発症は予測不能で、一旦発症すると急激に状態が悪化し致命的になる可能性の高い重大な合併症です。下肢に出来た血栓が何らかのきっかけで流れ出し、肺の血管に詰まることによって起こります。基本的な予防対策は行いますが、動脈硬化など血管の異常のある方や手術時間が長かった場合、大量に出血した場合など特に注意が必要です。
  10. 鼠径(そけい)ヘルニア:防止処置をした場合でも術後に鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)が起こることがあります。原因は不明ですが、潜在的にソケイ部に脆弱性のある方に起こりやすいと考えられています。後日、ヘルニア修復術が必要になることがあります。
  11. その他の合併症:リンパ節郭清後の陰部浮腫やリンパのう腫がみられることがあります。その他予測が難しい合併症が起こる可能性がありまが,その場合には早急に対応します。
  12. 死亡率:この治療による死亡率は0.2%〜0.5%と報告されています。

その他

退院後のことについて

摘出した前立腺を顕微鏡で観察し、癌組織がどれくらい広がっているかを調べます。
この検査(病理検査)は、結果が出るまで約2-3ヶ月を要しますので、通常は退院後に外来で結果を説明します。この結果と、PSAの経過を見て、追加治療が必要かどうかを検討します。

性機能の回復を希望する場合、陰茎のリハビリテーションを兼ねて、早期の血管拡張剤(PGE1)陰茎内注射やバイアグラなどのED治療薬の服用を勧めています。

東北大学の手術成績

癌の根治性について

癌が摘出されるとPSAは測定限界以下になります。経過中にPSAが上昇してきた場合は再発の疑いが出てきます(これをPSA再発と呼びます)。このような場合でも通常、症状はありませんが、追加治療の必要性について検討します。

治療成績は、リスク群や癌の進展度に応じて異なります。リスク分類に関係なく、摘出前立腺の病理組織検査で癌が前立腺に限局している場合は、術後5年のPSA非再発率(根治率)は90%以上です。

以下に2002年〜2009年に東北大学で施行された根治術の治療成績を示します(主に小切開手術約400症例)。

PSA再発した場合でも、放射線療法や内分泌療法などで長期間制癌が可能です。なお、PSA再発の時点でCTやMRI、骨シンチグラムなどを検査しても、病変が抽出されることは殆どありません。

術後の生活の質(QOL)について

東北大学病院泌尿器科で2002年以降、この手術を受けられた約100人の方のアンケート調査結果を下に示します。術後の回復具合について手術前を100とした時の割合で表しており、スコアが高いほど良い状態を意味しています(排尿症状を除く)。

 

患者様の健康状態について

 

尿失禁について  

手術後6ヶ月以降はほぼ日常生活に影響を与えないまで回復します。しかしこれは患者さんによって異なります。

術後の尿パッド(尿もれ用の紙あて)の必要性について

手術後6ヵ月後には80%、1年後には90%の患者様がパッドを使用していません。

排尿困難、残尿感などの排尿症状について(スコアが高いほど症状が強いことを示す)

前立腺を摘出するため、前立腺肥大症がある方は、排尿困難、残尿感などの症状が非常によく改善します。ただし、手術の影響で一過性に頻尿や夜間頻尿が増悪することがあります。術前から軽度の夜間頻尿がある場合は、長期的にもあまり改善がありません。夜間頻尿が、前立腺肥大症だけでなく、加齢に伴う全身疾患も原因になるからです。

性機能について

勃起神経の温存の程度により術後の勃起機能回復が異なります。
前立腺の左右では、すぐ傍に勃起神経が走行しています。「がん病巣」が神経に近いと判断される場合にはこれを切断する必要があります。一方「がん病巣」が神経と離れている判断される場合には神経を(片側または両側)残すことが可能です。

神経を残せるか否かはPSA値、臨床病期、生検所見などが参考になりますが、癌の根治性が最優先されます。最終的には手術中の状況で判断されます。
性機能回復の程度は術前の性機能によっても異なります。性機能の回復を希望する場合は、陰茎のリハビリテーションを兼ねて、早期の血管拡張剤(PGE1)陰茎海綿体内注射やバイアグラなどのED治療薬の服用が勧められます。

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