限局性前立腺癌のリスク分類

PSA値、生検組織の癌の悪性度(グリソンスコア)、直腸診・MRI等による癌の進展状況(病期)により、治療後の再発の危険度(リスク)を3段階に分け,治療方針決定の目安にします。

低リスク群: PSA≦10 、グリソンスコア≦6(3+3)、病期T1a〜c/T2a
*東北大学ではPSA≦10、グリソンスコア 3+4、病期T1a〜c/T2aも低リスク群としています。
中間リスク群:10<PSA≦20 または グリソンスコア7 または 病期T2b
高リスク群: PSA>20 または グリソンスコア≧8 または 病期T2c/T3

 

限局性前立腺癌のリスク分類と治療法

平成28年9月1日〜

以下にリスク別治療方針を示します。これらはあくまでも治療法決定の目安になるもので絶対的なものではありません。最終的には、生検所見、画像所見、患者さんの年齢や希望なども考慮して総合的に判断します。

低リスク群の治療法

低リスク群では癌は比較的おとなしいことが多いため、治療により再発する可能性は少ないとされています。場合によってはすぐに治療しないで経過を見ることもあります。

  1. 手術:前立腺全摘術(ロボット支援下手術で行っています)
  2. 放射線:強度変調放射線療法(IMRT)/小線源療法から選択します。
    -強度変調放射線療法は放射線照射の精度を高めるため、目印(金マーカー)を事前に前立腺に埋め込むことがあります。
  3. 監視療法(無治療経過観察):経過を見ながら必要があれば根治治療を行います。

中間リスク群の治療法

中間リスク群では低リスク群に比べて癌の悪性度が高くなるため、適切な治療が必要です。

  1. 手術:前立腺全摘術+骨盤リンパ節郭清(ロボット支援下手術)
  2. 放射線:半年間のホルモン療法+強度変調放射線療法(IMRT)
    -ホルモン療法はLHRH アゴニストまたはアンタゴニストによる注射と、必要により飲み薬(ビカルタミドなど)を併用します。
    -放射線照射の精度を高めるため、目印(金マーカー)を事前に前立腺に埋め込むことがあります。
    -小線源療法は一部の中間リスク群(比較的小さな癌)のみが適応になります。

高リスク群の治療法

通常の治療では再発の可能性が高いため、できるだけ根治性を高める方法を併用して治療を行います。

  1. 手術:前立腺全摘術+骨盤リンパ節郭清(ロボット支援下手術)
    -必要により拡大手術(根治性を高めるため通常よりやや範囲を拡げて摘出)を実施。
  2. 放射線:半年間のホルモン療法+強度変調放射線療法(IMRT)
    -ホルモン療法はLHRH アゴニストまたはアンタゴニストの注射とエストラサイト(女性ホルモン剤)を併用します。
    -放射線照射の精度を高めるため、目印(金マーカー)を事前に前立腺に埋め込みます。
    -小線源療法は高リスク群では適応になりません。

限局性前立腺癌の治療の概要

治療法とそれに伴う弊害については患者さんの年齢や合併症、癌の進行具合によって異なります。

1) 手術療法(前立腺全摘除術):文字どおり前立腺を全部摘出する方法です。約10日〜2週間の入院が必要です。現在はほぼ全例でロボット支援腹腔下前立腺全摘術を行っています。

<良い点>

前立腺を摘出することにより癌が取り切れたかも含めて正確な情報を知ることができます。再発した場合は放射線療法を追加することにより再度根治を期待できることもあります。

<悪い点>

癌の大きさや悪性度によっては全部取りきれない場合や、全部取り切れたと判断されても体内のどこかに残存し再発する可能性があります。また手術中の合併症以外にも手術後に尿もれ(尿失禁)や勃起障害が生ずる可能性があります。尿もれは通常6ヶ月以内に9割以上の方が日常生活に支障ない状態まで回復します。勃起機能障害は手術直後はほぼ全例に生じます。その後は徐々に回復傾向を示しますが、回復状況は勃起神経の温存の程度、年齢、術前の勃起機能、などによって異なります。神経温存例ではバイアグラなどED治療薬の効果が期待できます。

2)放射線療法(外照射):放射線を体の外から前立腺全体に当てて癌細胞を死滅させる方法です。治療期間は約2ヶ月間です。通院治療が可能ですが難しい場合は入院することも可能です。

<良い点>

癌を治す力は手術とほぼ同等とされています。全身麻酔や手術の必要はありません。前立腺から多少外に出た癌でも放射線の照射範囲に含むことができます。

<悪い点>

毎日少しずつ前立腺に放射線を照射するため2ヶ月近くの治療期間が必要になります。手術と異なり前立腺は体内に残るため、本当に治ったかどうか判断するのに時間がかかったり難しいことがあります。また放射線照射後に再発した場合に手術で前立腺を摘出することは一般的には困難です(一部の方では可能なこともあります)。また放射線照射中に排尿・排便障害が徐々に発生したり、治療後しばらくしてから血尿や下血などの症状が発生し稀に重症化することがあります。

3) 放射線療法(小線源療法):放射線を出すシード(数mm程度の針)を数十本前立腺内に埋め込んで内部から癌に放射線をあてる治療法です。5日間程度の短期間の入院で可能です。外照射と比較すると治療後は排便の問題は少ないものの排尿の問題が多くなる傾向があります。

<良い点>

低リスク群については手術とほぼ同等の治療成績と考えられます。前立腺局所だけの侵襲なので体への負担が軽く、ある程度高齢の方や合併症をお持ちの方でも麻酔が可能であれば実施できます。

<悪い点>

小線源療法だけではリスクの高い癌に対しては不十分な可能性があります。また治療後は前立腺が大きく腫大し排尿症状が悪化するため、治療前からおしっこで困っている方や前立腺のサイズが大きい方(約40ml以上)はお勧めしていません。外照射と違い体内に放射線物質を体内に埋め込むので周囲の方への被曝がごくわずかにありますが、健康に影響がでるようなことはありません。

4)監視療法(無治療経過観察):低リスク群の中でも特に癌がおとなしく小さい場合は治療しなくてもその方の予後に影響しない可能性があります。治療をしない、あるいは治療が必要になるまでの間、尿もれや勃起障害など治療に伴う不具合を回避することができます。ただ最初の時点で癌を過小評価していたり、経過中に予想外に進行してくる可能性もあるので、定期的にPSA採血や生検、画像検査などを行う必要があります。

<良い点>

不必要な治療を行わないことにより、治療に伴う合併症を回避しこれまでどおりの生活を行うことができます。また希望により進行していなくても途中で治療を行うことも可能です。

<悪い点>

経過を見ているうちに予想外に癌が進行してくる場合が稀にあります。また定期的な生検が必要になるため、生検による苦痛や合併症の危険があります。一部の方では癌を抱えたまま治療をしないでいることに精神的な負担を感じる方もいます。

5) 内分泌療法:前立腺癌は男性ホルモンにより進行する特徴があり、男性ホルモンを抑制することで癌の進行や症状を抑えることができます。ただ長期に続けることにより、骨粗鬆症や体重増加、メタボリック症候群、ほてり、勃起障害などの副作用が発生することが知られており、根治が期待できる局所癌では治療の効果を増強するために一定期間のみ使用されるのが一般的です。転移のある進行癌や、再発してきた癌に対しては長期に使用することもあります。男性ホルモンを抑える方法としてはLHRH アゴニストまたはアンタゴニスト(1−6ヶ月に1回注射)と必要により飲み薬(ビカルタミドなど)を併用することが一般的ですが、通院が難しい方などでは精巣(睾丸)を摘出する手術により同じ効果を期待することができます。

いずれの治療もいい点と悪い点が必ずあります。また治療法の選択肢はその方の状態(年齢・合併症・病気の進み具合・希望など)よって異なります。主治医からよく説明を聞いた上で、御自分に一番適していると思われる治療を選んでください。

【参照】

このページを印刷する このウインドウを閉じる