前立腺肥大症の治療をうける方へ

前立腺について

前立腺は男子の膀胱下部より尿道にかけて存在し、尿道を取り囲む様に存在する臓器です。成人の場合クルミ大(20g程度)で、精嚢などと共に精液の一部をつくっていますが詳しいはたらきは分かっていません。

前立腺肥大症とは

前立腺肥大症とは前立腺の肥大に伴って尿道が狭くなりおしっこが出にくくなる疾患です。排尿した後もおしっこが残った感じがあったり、おしっこが近くなったりといった症状が強いこともあります。このような症状は前立腺に豊富な自律神経の緊張が原因であることもあります。脊椎ヘルニアや脳硬塞、糖尿病などの神経の病気でもおしっこの具合が悪くなることがありますので、詳しく調べることが大切です。

一般的に加齢と共に前立腺肥大症の頻度は増えます。40歳代後半から50歳代前半より前立腺は大きくなってきますが70歳以降は大きくなり続ける方と変わらずにいらっしゃる方とに分かれます。その発症のはっきりした原因は分かっていませんが、ホルモンバランスの変化などが考えられています。

生活面では次に挙げることが危険因子と考えられています。

1. 食生活
魚介類や野菜、漬け物をあまり摂取しない
肉類やチーズなどの動物性蛋白質、脂肪を多く摂取する
2. 性生活
早くから性活動を開始し、年を取ってからも性活動が旺盛である

前立腺肥大症は3つの病期にわけられます。まず最初には膀胱の刺激症状が生じ、下腹部、会陰部の不快感や頻尿排尿困難が起こります。次にこれらの症状が強まると共に残尿感が生じてきます。残尿があるためおしっこに細菌がついてしまったり、飲酒や感冒薬で急性尿閉が生じたりします。最後には自力での排尿が困難となり、腎臓を悪くしてしまうこともあります。前立腺肥大症の治療にあたっては症状の緩和も大切ですが、残尿をなくし無理のない排尿ができるようになることを目標とします。

検査

前立腺肥大症の診断、治療にあたっては次に挙げるような検査を行っています。当科外来で既に行っている検査もあるでしょうし、またこれらのすべてを必ず行わなければいけないわけではありませんが、治療の有効性を予測しお伝えするのに助けとなります。
近年前立腺癌の頻度が増しておりますので採血で検査いたします。必要であれば前立腺生検という検査を追加します。

  1. 直腸内指診
  2. アンケート
  3. 血清PSA測定
  4. 超音波断層検査 (経腹的、経直腸的)
  5. 尿流量測定、残尿量測定
  6. 膀胱内圧測定、Pressure Flow Study、尿道内圧測定
  7. 逆行性尿道膀胱造影検査
  8. 膀胱尿道鏡検査

前立腺肥大症の治療

1. 薬物療法

a. αブロッカー
前立腺に存在する交感神経の緊張をとり、尿の通りをよくする薬です。前立腺そのものの大きさは小さくはなりません。
副作用は少ないのですが、立ちくらみやめまいを起こすことがあります。高血圧の薬物治療をうけている方は注意して下さい。射精障害や勃起障害が生じることもあります。このような症状が強い場合には主治医に相談してください。
b. 抗男性ホルモン薬
前立腺に対し男性ホルモンがはたらかないようにし、前立腺をある程度小さくする薬です。
性機能障害(勃起障害など)がでることがあります。原則16週間までの治療になります。また前立腺癌がもし存在していた場合にこれを隠してしまう可能性もあります。
c. 生薬、漢方薬

炎症を鎮めたり腫れをひかせることで前立腺肥大症に伴う症状を改善します。副作用が少なく長期投与が可能です。

2. 手術療法

2-1. 内視鏡手術
a. 経尿道的前立腺切除術 (TURP)
内視鏡を挿入し、切除用メスに高周波電流を流し直視下に前立腺を削り取る手術です。通常腰椎麻酔下に行われます。約50年前より存在し歴史のある、またその有効性も認められた手術です。削り取った組織を検査して前立腺癌が隠れていないか調べることができる利点もあります。下腹部に膀胱瘻という管を短期間留置することがあります。
術中出血やTUR症候群といった合併症の可能性がありますが、開放手術に比べるとずっと少ない侵襲で治療ができます。
おしっこの勢いの改善や残尿感のような症状の改善に優れます。
b. 経尿道的前立腺レーザー核出術 (HoLEP)
内視鏡を用いた手術で、レーザー照射しながら腫大した前立腺を摘出します。通常腰椎麻酔または全身麻酔で行われます。
TURPに比べ出血が少なく患者さんへの負担が少ないので早期退院が可能です。症状の改善もTURPとほぼ同等です。日本でも次第に普及しつつあります。
c. 前立腺高温度療法
前立腺肥大症に対する最も侵襲の少ない治療法と言えます。尿道より麻酔薬の入ったゼリーを注入するだけで治療が行えます。排尿の勢いはTURPほど良くなりませんが、頻尿や残尿感といった自覚症状の改善に優れます。出血や逆行性射精といった合併症の可能性もわずかですが、術後一過性の排尿障害が起こることがあります。当院ではおこなっていませんが希望があれば適当な施設を紹介します。
2-2. 開放手術
開放前立腺摘出術
お腹を切開して前立腺を取り出す手術です。最近は内視鏡手術の進歩により行われる頻度は減少しています。膀胱結石のような膀胱の病気があったり尿道が極めて狭くなっている方、砕石位をとれない方が対象になります。
2-3. その他の手術
尿道ステント
前立腺肥大症で狭くなった尿道にステントという管を入れ、尿道を内側から広げます。全身の状態が良くなく手術が難しい方、神経因性膀胱で先に述べた治療の効果が不明瞭な方などが対象となります。

3. 経過観察

前立腺肥大症は皆が治療が必用となる病気ではありません。なかには症状があまり変わらずに経過される方もいらっしゃいます。また服用されている薬のなかに排尿を邪魔する副作用のある薬があれば、これを変えていただくだけで症状が良くなる方もいらっしゃいます。このような方は様子をみていくこともできます。ただし残尿量の多い方は治療をうけられることをお勧めします。

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