前立腺癌に対するヨード(T‐125)シード線源を用いた
小線源療法の説明

平成18年5月

東北大学病院泌尿器科
東北大学病院放射線治療科

はじめに

当院でヨウ素(T‐125)シード線源の永久挿入による前立腺癌治療を受けることを考えていらっしゃる方は、本説明書をお読みになり、この治療がご自分に適しているかどうかをよくお考えになった上で決定して下さい。ご不明な点がございましたら、診察の際にお尋ね下さい。担当医が説明致します。

この治療は前立腺癌に対する放射線治療として、日本で新たに開始されたものです。アメリカでは現在の手法で既に15年以上も行われており、ごく一般的な治療法として確立しています。日本では医療法、放射線障害防止法などの法律的な問題により今まで施行できませんでしたが、平成15年7月認可に至りました。

この治療は限局性の前立腺癌においてのみ施行可能です。比較的浸襲が少なく、安全で有効な治療法であることはアメリカで立証されていますが、放射線治療の一種である以上、放射線による合併症が全くないわけではありません。また、治療効果も前立腺全摘手術とほぼ同等と言われていますが、それ以上のものではないと考えています。
当院では、平成18年5月より開始いたします。

目次

T 小線源療法とは U 治療の歴史 V 治療の特徴 W 治療の欠点
X 治療の適応 Y アメリカでの治療成績 Z 治療に至るまで [ 治療法
\ 合併症 ] 経過観察、再発時の治療 XI線源挿入後の注意  

T 小線源療法とは

  小線源療法とは、小さな放射線源を治療する部分に挿入して行う放射線治療です。英語ではブラキテラピー(brachytherapy)と言われています。ブラキ(brachy)とは短いという意味で、放射線源と照射目標との距離が短いことからこのように呼ばれています。日本においても古くから、口腔内の癌や婦人科領域の癌に対し、ラジウム、セシウム、金などの放射線物質を用いた小線源療法が行われてきました。

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U 治療の歴史

  1970年頃、アメリカでは前立腺癌に対しヨウ素(T‐125)を密封した小さなカプセル状の線源(シード線源)を前立腺の中に挿入して照射を行う、組織内放射線療法が行われていました。その頃は下腹部を切開し、直視下に前立腺内にシード線源を目算で挿入していたため、線源の分布が不均一でした。そのため期待する程の治療効果が得られず、広く普及するには至りませんでした。その後、直腸に細い超音波端子を挿入する前立腺用の経直腸エコーが開発され、前立腺の超音波画像が鮮明に得られるようになりました。そのお陰で、超音波画像を見ながら会陰部(肛門と陰嚢の間の股の部位)から前立腺内に針を刺して、そこからシード線源を挿入することができるようになりました。切開をせずに、しかも正確な位置に線源を挿入することができるようになって治療成績も向上したため、1990年頃からT‐125シード線源を用いた小線源療法は再び脚光をあびるようになり、この治療を受ける前立腺癌患者様はアメリカでは年々増加しています。最近では年間50,000人以上がこの治療を受けており、これは前立腺全摘手術を受ける人を上回る数です。

日本ではT‐125などの線源を体内に留置することが法律上認められていませんでしたので、T‐125シード線源を用いた治療は行われていませんでした。日本で前立腺癌に対する小線源療法として行われていたのは、イリジウム(Ir‐192)という線源を一時的に前立腺内に留置する方法で、1994年から開始されました。これも優れた治療法で、現在国内10数施設で治療が実施されています。

しかし、アメリカで行われているようなT‐125シード線源を用いた治療の方が患者様にとっての侵襲が少なく、合併症の発現頻度も少ないなどの点でIr‐192による治療よりも利点が多いため、日本においても長らくその治療が望まれていました。2003年3月にようやくT‐125シード線源の永久挿入が医療法上認可され、7月には放射線障害防止法上の問題も解決し、T‐125シード線源を用いた治療が日本で施行可能になりました。今後は日本においても、この治療が前立腺癌小線源療法の中心になっていくものと考えられます。

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V 治療の特徴

1. 放射線障害がおこりにくい

  前立腺癌の場合、前立腺内の癌の存在部位が画像上明確に示されません。そのため、前立腺癌に対し放射線を行う場合、前立腺内全域に十分な線量の照射が必要となります。従来のリニアックなどによる外照射療法は、体の外から患部に放射線を照射するため強いエネルギーでの照射が必要になります。そのため、前立腺の周囲の組織へも放射線が照射され、放射線に特に弱い直腸や膀胱の粘膜、皮膚などで放射線障害が起こることがあります。ところが小線源療法、特にT‐125などのエネルギーの弱い線源を用いた場合には、前立腺内部には十分な量の照射が可能ですが、前立腺周囲への照射量は少なく押さえられます。そのため、皮膚への影響はなく、直腸や膀胱で放射線障害が発生する率も低くなり、これがこの治療の大きな利点となります。

注:東北大学病院ではリスクの高い方々(中、高リスク群)には強度変調法(IMRT)による外照射療法を行っています。この方法は従来の外照射療法に比べて格段に軽い放射線障害で済みます。

2.安定した照射野が得られる

  前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって刻々と位置が変化し、1〜2cm移動すると言われています。通常の外照射療法の場合には、照射位置を決定するとそこへ照射を繰り返しますので、照射野が前立腺から少しずれる可能性があります。最近、副作用を減らす目的で照射野をなるべく狭くして、前立腺に限局して照射を行うようになってきました。しかし、照射野を絞れば絞るほど、照射野が前立腺からはずれる可能性が高くなります。小線源療法の場合には、線源が前立腺内にあるため一定の照射が行われます。

3.性機能が維持されやすく、尿失禁は起こりにくい

  前立腺癌治療の一つの課題は、いかに性機能(勃起能)を維持し、尿を失禁せずQOL(生活の質)を低下させないようにするかということにあります。前立腺癌治療において、ホルモン療法では男性ホルモンを低下させるため、性機能はほとんどの場合で失われます。前立腺全摘手術においては神経温存手術を試みても、機能が保たれる率は5割前後です。放射線治療は前立腺癌治療の中で最も性機能が維持されやすい治療で、特に小線源療法ではその率が高く、5年後に性機能が維持されている率は7〜8割と報告されています。また、失禁に関しては治療直後に起こることはまずなく、長期の間に生じることはありますが、その率は低いとされています。

4.体への負担が少なく、入院・治療期間は短い

  後項で示すような手術操作や麻酔が必要であり、体に全く負担がないわけではありませんが、全摘手術に比較するとかなり軽度なものです。入院は当院では3泊4日必要となりますが、全摘手術よりはかなり短いものです。8週におよぶ連日の通院治療が必要な外照射療法に比べ、入院が必要とはいえ短い治療期間ですみます。

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W 治療の欠点

1. 放射線障害

  先に述べたように、外照射に比較すると放射線障害は生じにくいものですが、直腸、膀胱、尿道への影響はないわけではありません。直腸での障害としては直腸粘膜などにびらんが生じ、ひどい場合には潰瘍や膿瘍が形成されることもあります。膀胱粘膜が炎症を起こし、様々な排尿症状を呈することがあります。尿道の炎症が強い場合には排尿痛が強く、後で尿道狭窄が起こることもあります。これらの障害が発生するかどうか、またその程度の差は個人の放射線に対する感受性の相違などによって起こります。具体的な症状は「合併症」の項で述べます。

2. 治療効果の限界

  アメリカでは10年の経過を見た後の治療成績が発表になっていますが、そこではこの治療の成績は全摘手術や外照射療法とほぼ同等とされています。具体的な数字は「アメリカでの治療成績」の項で述べます。しかし、癌細胞の中には放射線を照射しても死滅しないものがある可能性があり、小線源療法による治癒率は手術以上ではあり得ないと考えています。

小線源療法で治癒する際、解剖学的な理由と、尿道の線量を過剰にしない配慮から尿道前面には線源を留置していません。そのためその領域の照射線量が多少低くなる傾向があります。前立腺の中において、その部分が最も癌の発生しにくい部位ですのであまり問題にはならないのですが、たまたまその部分に癌があると治療効果が不十分なこともあり得ます。

3. 治療時の侵襲

  麻酔や針の刺入による体への侵襲はさけられません。これらの操作に伴う危険性は少ないものですが、全くないわけではありません。

4. 治療適応の制限

  次の「治療の適応」の項で述べるような症例にしか、この治療は行えません。また「併用療法」の項で詳しく述べますが、病気が発見された時点でのPSA(前立腺特異抗原)値やグリソンスコア(癌組織の悪性度)によっては、小線源療法単独では効果が不十分で外照射を併用する必要があります。

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X 治療の適応

1. 転移・浸潤のない場合にのみ治療が可能

  治療の特徴の項で述べたように、前立腺周囲での照射量は少ないため、癌病巣が前立腺の周囲までおよんでいた場合(被膜外浸潤)、十分な治療効果が得られなくなります。ですからこの治療を行う場合には、治療前に転移や浸潤がないことを確認しなければなりません。前立腺癌の診断がついた時点でリスク分類が低〜中リスク群(低リスク群が望ましい)であることがこの治療を受ける上での必要条件となります。PSAやグリソンスコアが高かったり、被膜外、精嚢、膀胱などへの浸潤があったり、リンパ節や骨、もしくは他臓器への転移を認める場合にはこの治療の対象にはなりません。もともと浸潤や転移があり、ホルモン療法を行った後に画像上それが消失したとしても、この治療の適応にはなりません。それは画像上病巣が見えなくなっていても、過去のデータ上ほとんどの場合は顕微鏡的には浸潤・転移病巣が残存しているからです。

2. 再発例では治療できません

  前立腺全摘手術後に再発した例や放射線治療後の再発例では、この治療は施行できません。また、ホルモン療法中にPSA値が上昇してきたようなホルモン療法耐性例では、多くの場合この治療は無効です。

3. その他、治療ができないもの

  次のような場合には、この治療は施行できません。

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Y アメリカでの治療成績

アメリカでは10年以上の成績が発表されています。T‐125シード線源の治療を早くから始め、アメリカ国内でも治療件数の多いシアトルの施設からの報告を示します。彼らは前立腺癌診断時のPSA値およびグリソンスコアにより、病気が進行しやすい高リスク群と、しにくい低リスク群に分けて検討しています。グリソンスコアとは前立腺癌の悪性度を示し、癌組織を顕微鏡で見た時の所見で評価します。スコアは通常2〜10の9段階で表しますが、数値が高い程悪性度が高く進行の早い癌です。

 低リスク群の場合には、治療後10年間の非再発率が88%程度となっています。高リスク群の場合には、それが55%程度となっておりその差は顕著です。

(PSA低値とは一般に10ng/ml以下の場合です)

 アメリカ小線源療法学会は、低リスク群では小線源療法単独でもよいが、高リスク群では外照射の併用を奨励しています。

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Z 治療に至るまで

1. 初診から治療の決定まで

  他施設で生検を受けられ、前立腺癌の診断のついた方は初診時にプレパラートを含む現在までのデータをお持ち下さい。初診時に必要なデータは、生検時のPSA値、グリソンスコア、臨床病期、現在までの治療内容、合併症・既往症、現在服用中の全ての薬などです。担当医からの紹介状をなるべくお持ち下さい。ワーファリンやアスピリンなど出血が止まりにくくなる薬を服薬されている方は、治療の前後あわせて2週間程休薬しなければなりませんので、それが可能かどうか確認が必要になります。また、臨床病期診断のために用いたレントゲン写真(CT、MRI、骨シンチ等)、生検の病理標本(顕微鏡で見るためのプレパラート)は治療方法を決定する上で必要ですので、当院での治療を行うことが決定した際には借りてきて頂くことになります。もちろん初診時に持参して頂いても結構です。お借りしたものは必要ではなくなり次第、必ず返却いたします。

グリソンスコアは病理標本を検鏡する病理医の主観が入るため、検査を受けた施設により異なることがあります。必ず当院の病理医により確認させて頂きますので、病理標本の持参は不可欠です。病理標本の検査には3週間程度かかります。

 これらのデータをもとに治療の可否について相談の上で決定いたします。治療の日程に関しましては、その時点での待機患者様数などの状況をふまえ相談させて頂きます。

2. 治療前の準備

  その時点での前立腺体積を測定するためのエコーおよび全身麻酔にむけての一式検査(採血、心電図、胸部レントゲン、肺活量)を行います。前立腺体積が40t以上の場合には3〜6ヶ月間のホルモン療法を行い、縮小させてから治療を行います。ホルモン療法は通常LH‐RHアゴニストの4週間毎の皮下注射を行います。
治療日の3〜4週間程前に来院して頂き、治療のためのボリュームスタディを手術室で行います。治療時と同じ体位をとり、経直腸エコーを用いて前立腺の形態を三次元的に解析してコンピューターに取り込みます。このデータをもとにT‐125シード線源の使用線源数を決定します。先日の全身麻酔用の検査で何か所見がある場合には、予め専門医の診察を受けて頂くことがあります。

治療同意書、承諾書、現在の生活の質、すなわち排尿・排便状態、性機能などを伺うための質問用冊子、および普段の生活において長時間接する人(奥様、他の同居家族、ヘルパー、職場の人など)との過ごし方や通勤に関する調査票をお渡しいたします。それらを入院までにご記入頂き、入院時に病棟でお渡し下さい。また、問診票もお渡しいたしますのでご記入の上、併せて病棟の看護師にお渡し下さい。

3. 入院

  入院は東北大学病院の放射線科病になります。入院予定日の数日前に、病院の係りから電話での確認があります。入院の部屋に関しては、ご希望に添わない場合もあります。入院時に持参して頂くものは、入院予約時に外来の看護師から説明があります。入院後、治療に関する質問がありましたら医師もしくは看護師にお尋ね下さい。
ワーファリン、アスピリン(バイアスピリン、小児用バファリン)など出血に影響する薬は入院の1週間前から中止して下さい。それらの薬を中止するにあたっては、薬の処方を受けている主治医の許可を得る必要があります。

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[ 治療法

1. 手技

  治療(線源挿入)前日、陰部の切毛を行い、夜に下剤を服用します。治療当日、治療終了までは一切の経口(食事、飲水)はできません。必要な薬の内服がある場合には、こちらから指示いたしますので少量の水で服用して下さい。朝から点滴が入ります。午前中に浣腸を行います。治療は通常午後になります。
治療は全身麻酔で行います。尿道に排尿のための管が入り、翌日まで留置されます。下腿には血栓予防のための装具がまかれます。台に横たわって頂き、下肢を挙上した格好で治療を行います。肛門からエコーのプローブが入り、エコーの画像を見ながら、会陰部から前立腺内にアプリケーター針と呼ばれる長い針が20本程刺入されます。コンピューターで計算された通りに、それぞれの針の中に数個ずつシード線源が挿入されていきます。症例により異なりますが、全部で40〜100個程のシード線源が留置されることになります。治療には麻酔に要する時間を含めて、2〜3時間前後かかります。

2. 治療後退院まで

  治療後、部屋のベッドへもどりますが、翌朝まで起き上がらないで下さい。食事は翌朝からになります。疼痛や排尿の管による違和感が強ければ申し出て下さい。鎮痛剤を使用します。

翌朝からは歩いて頂いて結構です。食事、飲水の制限もありません。前立腺やシードの状態を確認するため、CTスキャンとレントゲンの検査を行います。CTスキャンの後、排尿の管を抜きます。その後はご自分で排尿をして頂きますが、前立腺がむくんでいるため尿が出にくいことがあります。前立腺部の尿道を拡げ、尿の通りをよくする作用の薬を服用します。治療翌日より1日1回、朝食後に飲んで頂きます。退院時、次回外来までの分を処方いたしますので続けて飲んで下さい。薬の副作用で血圧が下がり、立ちくらみなどが起こることが稀にありますが、そのような症状が見られたら薬を中止して下さい。排尿時の痛みや頻尿はほとんどの人に見られますが、徐々に軽減していきます。

尿中にシード線源が出てくることが稀にありますので、尿は一度尿瓶に採ってからガーゼにこして蓄尿瓶にあけて下さい。シードが見られたらそのままにして、看護師に伝えて下さい。

問題となるような症状がなければ、治療の翌々日に退院となります。

3. 退院後

  シード線源は永久に入ったままになります。放射能は初めから非常に弱いもので、しかも60日毎にでる放射線の量は半分に減少し、そして1年経つとほとんど0になります。周囲の方への影響はほとんどありませんが、念のために入院前に記載頂いた内容をもとに、普段の生活において長時間接する人に対する放射線の影響を計算してお知らせいたします。その結果、もし周囲の人への影響が懸念された場合には、一定期間生活様式を少し変えて頂くことになります。治療後1年間は、放射線源が体内に入っていることが記載された治療カードを常時携帯して頂きます。その他詳しい注意事項は「線源挿入後の注意」の項をお読み下さい。

  治療前に服用していた前立腺癌治療以外の薬は治療翌日から再開しますが、ワーファリン、アスピリン(バイアスピリン、小児用バファリン)など出血に影響する薬は治療後1週間してから再開して下さい。

退院後2週間から1ヶ月目にPSAの採血およびレントゲン、CTスキャンの検査を泌尿器科外来およびレントゲン室で行いますので必ず受診して下さい。
小線源療法前にホルモン治療を行っていた方は、治療後は中止します。ホルモン療法の併用は原則的には行いません。

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\ 合併症

手術中、直後には穿刺に伴う血尿が見られます。アメリカでは静脈内血栓の形成、それに伴う肺梗塞が報告されています。麻酔による合併症として呼吸不全、血圧の変動に伴う心筋梗塞や脳出血などの発症はあり得ないことではありません。治療前に血液の凝固を抑える薬(ワーファリンやアスピリンなど)を服用されている方は、治療前後に薬を中止しなければなりませんので血栓の形成などの危険があります。

小線源療法に伴う合併症としては、治療後早い時期に出現する急性合併症と治療後1〜2年位のうちに出現する晩期合併症があります。急性合併症には血尿、血精液症、排尿障害・尿閉、排尿痛、会陰部・肛門部痛、頻尿、会陰部皮下出血、肛門出血・血便などがあります。血尿、血精液症、会陰部皮下出血(針を刺した股の部位の皮膚が紫や黒くなる)などの現象はほとんどの場合に見られます。頻尿や軽度の痛み、尿が少し出しにくいなどの症状は頻繁に見られ、特に夜間に尿が出にくいことがよくあります。しかし、強い症状やそれ以外の症状の出現は滅多にありません。前立腺は穿刺や放射線の影響でむくみますので、尿が出にくくなることは多かれ少なかれあります。そのため、治療後に尿道をひろげる作用のある薬を服用して頂きます。退院後もしばらく服用し、排尿の状態が改善したら中止します。治療後すぐに尿閉をきたす場合も稀にあり、その場合には排尿の管を留置して退院します。管の先についているふたを開閉して排尿することになりますが、長く留置することはありません。また、退院した後に尿閉をきたすこともあり、その場合には当院もしくは近医を受診して管を入れなければなりません。治療後に尿閉をきたす人は4〜5%程度です。

晩期合併症は放射線の組織障害によって起こってくるものです。性機能の障害は外照射や他の治療よりも低率ですが、それでも20〜30%程度に出現します。尿道への放射線の影響は少なからずあり、そのために尿道が狭くなって、そこをひろげるような治療を要することが稀にあります。直腸は前立腺に接しており、その粘膜は放射線に弱い性質があります。直腸に障害が生じると痛みが生じ、粘膜から出血したり潰瘍や膿瘍ができたりします。抗炎剤等の使用で徐々に回復することが多いのですが、重篤な場合には一時的な人工肛門の造設が必要になることもあります。

シード線源が挿入時もしくは挿入後、血流にのって肺などへ移動することがあります。その場合X線写真などで写りますが、問題になるようなことは何も生じていません。
この治療の後で勃起力の低下などの性機能障害が20〜30%程度の人で生じると言われています。逆に、治療前のホルモン療法を行っていた場合には、それを中止することで徐々に機能が回復してくることが期待できます。いずれにせよ治療後の勃起力の低下には、レビトラやバイアグラなどの薬の有効性が期待できます。心臓や血圧、前立腺肥大症の薬を服用しているとこれらの薬が使用できない場合がありますが、薬を希望される方は主治医に申し出て下さい。

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] 経過観察、再発時の治療

放射線照射後の癌細胞は1〜2年程かけて徐々に死滅していきます。しかし、放射線に感受性の少ない癌細胞もあり、全滅するとは限りません。生き残った細胞が極少数なら、おそらく臨床的な再発をきたすのに何10年もかかり問題にならないでしょう。放射線治療の効かない細胞が多くあった場合や、照射が充分に行きわたらないところに癌細胞があった場合には再発となり、次なる治療を要することになります。再発には二通りあり、前立腺内および近傍に再発する局所再発と、前立腺から離れた部位に再発する転移です。これらの再発の出現がないかどうかは、定期的に血液検査を行い、PSA値を見ていきます。再発がない場合にはPSA値は1年から数年かけて徐々に減少し、ある程度下がった所で安定して推移します。局所再発もしくは転移が生じた時には、そのほとんどの場合にPSA値が上昇してきます。

治療後、2〜4週目に当院の泌尿器科と放射線科の外来を受診して頂きます。1ヶ月目あたりで腹部のレントゲン撮影、CTスキャンの検査を受けて頂き、前立腺の腫れがなくなった時点での最終的な線源の配置を確認します。その後は状態が落ち着いていれば3ヵ月後との通院となり、PSAの採血をその都度して頂きます。

小線源療法後に局所再発をきたした場合、追加の放射線治療はできません。それは人間の体の一部位が一生の間に受けられる放射線量には限界があり、それ以上の照射を受けると組織が壊死して腸管に穴が開くなどの障害が生じます。小線源療法で前立腺には限界近くの放射線照射が行われていますので、そこにはそれ以上の照射ができません。また、小線源療法を行った後に前立腺を摘出する手術も困難です。放射線を照射した後の組織は固く、しかも一塊になっているため、そこを無理に手術すると大きな合併症が生じることが多いからです。PSA値の上昇が局所再発によるものなのか、あるいは転移によるものなのかを鑑別するため、前立腺の生検を行うことがあります。

再発時の治療にはホルモン療法が一般的に用いられます。ホルモン療法は局所再発でも転移でも有効です。ホルモン療法はLH‐RHアゴニストの注射を用いるのが一般的で、小線源療法後の再発例においても長時間の効果が期待できます。

小線源療法後1〜2年経った頃、再発でなくてもPSA値が上昇する現象が時々見られます。低値であったPSA値が10位まで上がることもあります。これはバウンス現象と言われ、原因は不明ですが数ヶ月のうちに自然とPSA値が下がってきます。ですからこの時期にPSA値の上昇があっても再発とは限りません。

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XI線源挿入後の注意

  体に埋め込んだT‐125シード線源は放射線を出しますが、ほとんどは前立腺に吸収されてしまいます。体自体が放射能を持つわけではないので、尿、便、汗、唾液などの分泌物には放射能は一切ありません。普段どおりに人々と接することができます。周囲の方へ与える放射線量は、人が自然に受けている放射線量よりも低いことがわかっています。しかし、一定の期間は周囲の方への配慮が必要です。

妊娠されている方と同室にいることは問題ありませんが、隣に長く座ることはしばらく避けて下さい。小さなお子様と同室で遊ぶことは問題ありませんが、膝の上に乗せることはしばらく避けて下さい。周囲への影響は極めて少なく、安全であることがアメリカで確認されています。治療後2ヶ月が過ぎれば線源の放射能は半減しており、1年経てば影響を気にする必要はなくなります。

ごく稀なことですが、排尿時に線源が排泄されることがあります。1個の線源から出る放射線は微量であり、実際には問題を生じません。線源を拾えるようならスプーンなどですくい、瓶などの容器に入れ、子供の手の届かないところに置いて下さい。その後、あわてずに担当医にご連絡下さい。治療後4週間したら性行為を行うことは問題ありませんが、精液中にシードが排泄されることもあるため1年間はコンドームを使うようにしましょう。

治療後1年間は「治療カード」を携帯して下さい。また、その間に何らかの手術が行われる場合には、手術を担当する医師から当院の担当医に連絡をするようお願いして下さい。万一、治療後1年以内に何らかの原因で死亡された場合には、法律上前立腺を摘出する必要がありますので、ご家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。

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病院提出用
承 諾 書
東北大学病院 院長殿
このたび、貴院においてヨウ素T‐125シード線源の永久挿入による前立腺癌治療を受けるにあたっては、治療の内容を十分に理解し、その施行を自分の意志で決定し希望いたしました。
 入院中および退院後の注意点に関しても十分理解しており、それを厳守することを承諾いたします。また、治療後1年以内に死亡した際には解剖を行い、前立腺を摘出する必要性に関しても理解しており併せて承諾いたします。
平成   年   月   日
患者氏名                       
患者生年月日                       
関係者氏名                       
続 柄                       

 

小線源治療同意書
患者氏名:                       
生年月日: 明治・大正・昭和・平成   年   月   日
予定治療: T‐125を用いた小線源治療
治療予定日: 平成   年   月   日
貴院の「前立腺癌に対するヨード(T‐125)シード線源を用いた小線源療法の説明」に従いこれから受ける予定の手術に関し医師より説明を受けました。
治療内容の詳しい説明が記載された「前立腺癌に対するヨード(T‐125)シード線源を用いた小線源療法の説明」を受領しました。
説明に関しては質問する機会を与えられ、用語や説明内容で理解できない点疑問点等に関して、理解・納得できる追加説明を受けました。
説明内容を理解した上で、上記治療を受けることに同意いたします。
(本人または代理人は上記各項目を確認し□にチェックして下さい)
 
 
東北大学病院 院長殿
 
説明年月日: 平成   年   月   日  
同意年月日: 平成   年   月   日  
患者署名:                         
代理人署名:                        (続柄:      )
関係者署名:                        (続柄:      )
                         (続柄:      )
                         (続柄:      )
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