小児泌尿器科研修目標

宮城県立こども病院における泌尿器科専門医教育プログラム

1.小児泌尿器科基礎的事項

I 発生学

□ 尿路・性器の発生を理解している。
□ 尿路・性器の先天性疾患を発生学的に解説できる(後期)。

II 腎生理学

□ 尿生成の機構を理解している。
□ 体内酸塩基平衡と腎の役割を理解している。
□ 小児の腎生理学的発達について理解できる。

III 生殖生理

□ 性ホルモン調節機構を理解している。
□ 精細管の微細構造と精子の成熟過程を理解している。

2.小児泌尿器科診断学

I 理学的検査

□ 腎および腹部の触診法を理解し、実施できる。
□ 陰嚢、そけい部、陰茎の触視診が施行できる。

II 症候

□ 排尿に関する多様な症候を問診で鑑別できる。
□ 腎尿路性器に関する疼痛や発熱の原因を推定できる。
□ さまざまな症候群に合併する頻度が高い腎尿路性器を鑑別できる。

III 尿検査

□ 採尿法(尿沈渣、尿培養)の基本を理解している。
□ 尿の生化学的検査を理解し、所見を判定できる。

IV 血液検査

□ 各種血液生化学検査の意義を理解し、診断・治療に応用できる。
□ 内分泌機能検査の意義を理解し、疾患の鑑別ができる。

V 内視鏡検査(小児では全身麻酔下)

□ 経尿道的操作の基本を理解できる。
□ 硬性膀胱鏡により尿道、膀胱内が観察でき、所見を記載できる。
□ 腹腔鏡検査が実施できる。

VI 画像診断(小児ではときに全身麻酔あるいは鎮静が必要)

□ 超音波検査により腎、膀胱、陰嚢内容の観察ができる。
□ 各種核医学画像診断法を理解し判定できる。
□ 排尿時膀胱尿道撮影、尿道造影を施行し、読影できる
□ CT scanによる尿路性器の画像を読影できる。
□ MRIによる尿路性器の画像を読影できる。
□ 経皮的順行性腎盂造影を施行し、読影できる。
□ KUB、DIVPを実施し、読影できる。

VII 腎機能検査

□ 各種腎機能検査を理解し、判定できる。

VIII 各種生検(小児では全身麻酔下)

□ 腎生検を施行できる。

IX ウロダイナミックス(小児ではときに全身麻酔あるいは鎮静が必要)

□ 膀胱内圧測定・尿流動態検査の原理を理解し、実施・判定ができる。

3.小児泌尿器科疾患各論

I 小児患者の診療

□ 小児患者の診療に際し、患者および保護者と適切なコミュニケーションがとれる。
□ 小児患者の視診、聴診、触診、腹部超音波検査などが適切に行える。
□ 小児患者の投薬に際し、適切な投薬量や投薬方法の知識を持ち、それを適切に行える。
□ 小児患者の周術期管理が適切に行える。

II 腎の発生異常

□ 腎の発生異常(腎無形成、過剰腎、融合腎、変位腎、回転異常腎など)について概説できる。
□ 腎の発生異常に高頻度に合併する他の泌尿器科的先天性異常について概説できる。
□ 嚢胞性腎疾患(嚢胞腎、多嚢胞性異形成腎、腎嚢胞、など)について鑑別し概説できる。
□ 腎の発生異常について必要な画像検査とその適応が概説できる。

III 腎盂、尿管の異常

□ 先天性水腎症について概説できる。
□ 膀胱尿管逆流症(VUR)について概説できる。
□ 巨大尿管について概説できる。
□ 尿管瘤および尿管異所開口について概説できる。
□ 腎盂尿管の発生異常について、予後、合併症、治療の適応、治療開始時期、治療の合併症について十分に理解し、適切な治療法を選択できる。
□ 腎盂、尿管異常に対する外科的治療(開放手術、体腔鏡手術、内視鏡手術)の術前、術後管理ができる。

IV 膀胱、尿膜管の異常

□ 膀胱憩室(Hutch憩室など)について概説できる。
□ 膀胱外反症、尿道上裂について概説できる。
□ 尿膜管の異常について分類し概説できる。
□ 特に膀胱外反症、あるいは総排泄腔の異常に関しては、非常に難しい病態であることを理解し、他科とも提携して、個々の患者に応じた最終目標に向かって、長期的な視野にたって治療を計画できる。
□ 膀胱、尿膜管の異常に対する外科的治療の術前、術後管理ができる。

V 尿道の異常

□ 尿道下裂とその種類(遠位型、近位型、索状物の有無など)、それに伴う陰嚢の異常について概説できる。
□ 先天性後部尿道弁について概説できる。
□ 先天性尿道狭窄について概説できる。
□ 尿道の異常について、症状、疾患が発見される契機、必要な画像検査が概説できる。
□ 尿道下裂における手術適応、適切な手術術式、手術時期、手術の合併症を概説できる。
□ 先天性後部尿道弁、先天性尿道狭窄の手術術式、手術時期、手術の合併症を概説できる。
□ 尿道の異常に対する外科的治療の術前、術後管理ができる。

VI 陰茎の疾患

□ 小児の包茎、合併症、手術適応、手術術式、手術の合併症について概説できる。
□ 外尿道口嚢胞、陰茎縫線嚢胞について概説できる。
□ 埋没陰茎、翼状陰茎の手術適応、手術時期について概説できる。
□ 矮小陰茎について必要な検査、治療法について概説できる。
□ 陰茎の異常に対する外科的治療の術前、術後管理ができる。

VII 陰嚢、陰嚢内容の異常

□ 停留精巣の分類について概説できる。
□ 停留精巣の理学所見、鑑別診断、必要な検査、画像診断、手術適応が解説できる。
□ 陰嚢水瘤、精索水瘤の理学所見、鑑別診断、必要な検査、画像診断、術式、手術時期を解説できる。
□ 精巣捻転症の理学所見、鑑別診断、必要な検査、画像診断、手術適応を解説できる。

VIII 小児の尿路性器悪性腫瘍

□ ウィルムス腫瘍の発生頻度、合併症(症候群)、組織分類、病期分類について概説できる。
□ 先天性間葉芽腎腫について概説できる。
□ 横紋筋肉腫の発生頻度、病期分類について概説できる。
□ 小児の尿路性器悪性腫瘍の組織型、病期分類に従った治療方針を決定し、化学療法、放射線療法の適応、手術の適応を概説できる。
□ 小児の尿路性器悪性腫瘍の外科的治療の術前、術後管理ができる。
□ 小児の尿路性器悪性腫瘍に対する抗癌剤の化学療法について理解し、実践できる。

IX 尿失禁と夜尿症

□ 尿調節機構(中枢神経、末梢神経)について概説できる
□ 尿失禁について分類し、尿失禁をきたす原因疾患(神経学的疾患、器質的疾患)について概説できる。
□ 夜尿症(遺尿症)の原因について概説できる。
□ 尿失禁の状態把握のために、保護者および患児より診断に必要な情報を聴取できる。
□ 器質的疾患との鑑別に必要な腹部超音波検査など適切な検査を選択し、施行できる。
□ 尿失禁または夜尿症に対する、カウンセリング、適切な投薬、治療方法の選択ができる。

X 腎尿路・性器外傷

a 腎外傷

□ 腎外傷の重症度についての分類を概説できる。
□ 腎外傷の診断、検査治療手順を概説できる。
□ 腎外傷の保存的治療、手術適応について概説ができる。

b 膀胱外傷

□ 膀胱外傷、膀胱破裂の重症度、診断、検査手順を概説できる。
□ 膀胱外傷、膀胱破裂の保存的治療、手術適応について概説ができる。

c 尿道外傷

□ 尿道外傷の受傷機転と尿道の構造について概説できる。
□ 尿道外傷患者の診断、検査、治療手順を概説できる。
□ 膀胱瘻造設術、尿道形成術の周術期管理が行なえる。

XI 性分化異常

□ 性分化異常を原因および表現型により分類し、概説できる。
□ ターナー症候群、クラインフェルター症候群、XX male、XY female等の症候群について概説できる。
□ 副腎皮質ホルモン・性ホルモンに関連した性分化障害について概説できる。
□ 性同一性障害症候群について概説できる。
□ 性分化異常を分類・診断するための各種検査(腹腔鏡検査を含む)について理解し、必要に応じて適切な治療を選択できる。
□ 性分化異常について、社会的な性の決定についてカウンセリングができる。

XII 尿路性器感染症

□ 上部尿路感染症と下部尿路感染症における症状、起炎菌、治療法の差異を概説できる。
□ 単純性尿路感染症と複雑性尿路感染症における原因疾患、症状、起炎菌、治療法の差異を概説できる。
□ 尿路感染症を診断するための画像診断、血液生化学検査について概説し施行できる。
□ 尿路性器感染症患者に対し、腎機能や全身状態を把握したうえで適切な投薬量や投薬方法、治療(外科的手技を含む)を行える。

XIII 神経因性膀胱

□ 下部尿路の臨床的な解剖、神経支配を概説できる。
□ 神経障害部位による神経因性膀胱の分類ができる。
□ 二分脊椎症の診断、分類、合併症について概説できる。
□ 排尿に関しての基礎的な問診ができ、理学的所見がとれる。
□ 膀胱内圧測定・尿流量測定を施行し評価ができる。
□ 外尿道括約筋筋電図を施行し排尿筋外尿道括約筋協調不全を診断できる。
□ Video Urodynamicsを施行し評価ができる。
□ 神経因性膀胱に対する適切な薬物療法ができる。
□ 清潔間欠的自己導尿法を理解し指導できる。
□ 尿路変更術、膀胱拡大術の適応を概説できる。

4.小児泌尿器科手術

1)各種到達方法

I 腎臓、尿管へのアプローチ

□ 傍腹直筋切開による後腹膜腔への到達方法。
□ 側臥位でのmuscle splittingによる到達方法。
□ 第11, 12肋骨切断を併用した後腹膜到達方法。
□ 経腹的到達(正中切開、chevron切開):結腸外側切開、腸間膜切開。

II 膀胱、下部尿管へのアプローチ

□ 傍腹直筋切開による後腹膜腔への到達方法。
□ 下腹部正中切開による膀胱前腔への到達方法。
□ Phannenstiel切開による膀胱前腔への到達方法。

III 陰嚢内容、精索へのアプローチ

□ 経陰嚢的到達方法。
□ 鼠径部切開による到達方法。

2) 経尿道的手術

□ 経尿道的手術の方法と注意点。
□ 小児用内視鏡の特徴と使い方。

3) 体腔鏡手術(腹腔鏡、後腹膜鏡)

□ 体腔鏡手術(腹腔鏡、後腹膜鏡)の利点と欠点。
□ トロカールの種類、穿刺位置。
□ 気腹に伴う合併症。

4) 経験すべき手術と施行手術件数

1群:手術法の原理とその術式を理解し、執刀医として実施できる。経験例を重ねることによって、術式のオプションに対し適切に対処できるようになる。
2群:手術法の原理とその術式を理解し、指導医の下で手術を自ら実施できる。術式のオプションについては、指導医の意図を十分に理解しその介助が可能となる。
3群:手術法の原理とその術式を理解し、手術の助手をつとめることができる。
4群:手術法の原理と術式を理解しているが、症例数も限られている術式であり6ヵ月間の目標経験数は設定しない。(教科書およびビデオ)

術式 目標症例数(6ヵ月間)
1群 小児 ・経皮的腎瘻造設術 3
1群 小児 ・経尿道的膀胱砕石術 2
1群 小児 ・精巣固定術 30
1群 小児 ・包皮環状切除術 2
1群 小児 ・経尿道的内尿道切開術 5
1群 小児 ・精巣水瘤根治術 10
2群 小児 ・腹腔鏡検査(精巣、性分化異常) 5
2群 小児 ・膀胱尿管逆流防止術 20
3群 小児 ・腎盂形成術(開放手術) 5
3群 小児 ・尿管膀胱新吻合術+尿管形成術
(巨大尿管症、尿管異所開口)
3
3群 小児 ・尿道下裂手術 20
3群 小児 ・経尿道的手術(後部尿道弁、尿管瘤) 5
4群 小児 ・膀胱拡大術  
4群 小児 ・下部尿管切除―尿管膀胱新吻合
(psoas hitch法、Boari flap法他)
 
4群 小児 ・体腔鏡手術
(腎摘出術、腎盂形成術、停留精巣)
 
4群 小児 ・外陰形成術、陰茎陰嚢形成術  
4群 小児 ・膀胱外反症手術、総排泄腔外反症手術
総排泄腔遺残手術
 
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