東北大学病院 泌尿器科 外科病態学講座泌尿器科学分野

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受賞

日本泌尿器科学会研究助成金 受賞 助教授 斎藤 誠一

<課題名>前立腺癌の新しいマーカーRM2抗原の血清における測定法の確立

日本泌尿器科学会の名誉ある助成金をいただくことができ大変うれしく思います。近年PSAの特異性の問題や悪性度を反映しないことから派生する問題点が指摘されており、新しいマーカーに対する期待の表れと受け止めていますが、一方で、この受賞につながった泌尿器系癌の糖鎖研究を臨床の傍ら続け約18年もの歳月が過ぎたことを振り返ると、感激もひとしおです。

一言で言うとRM2抗原は予期しなかった抗原です。留学当時(1992年)、腎癌から抽出した新しい糖鎖(ganglioside)の一つであるdisialosyl globopentaosylceramide (DSGb5)の研究を目的として、DSGb5に対するモノクローナル抗体を作成しました。しかし、作成されたモノクローナル抗体RM2の認識抗原(RM2抗原)は、その後の研究でDSGb5ではなく、クロマトグラフィー上DSGb5と同位置に移動する糖鎖であり、精製したと考えていたDSGb5分画に混入していた糖鎖であることが判明しました。種々の経緯を経て9年後の2001年、ようやく共同研究者の伊藤明宏によりRM2抗原が箱守仙一郎教授の下で同定され、全くの新規の糖鎖であることがわかりました。この糖鎖は非常にユニークなハイブリッド構造であり、構造上の特徴が、前立腺癌の上皮性でありながら神経内分泌学的な二重の性格を反映していると考えられました。そこで前立腺癌標本を染色したところ、前立腺癌が染まったので、可能性はあると思っていましたが正直いってびっくりしました。その上、前立腺癌の悪性度分類に用いられるGleason grading systemを反映して、高悪性度の癌で発現が高いことがわかり、さらに血清で検出される可能性が示唆されました。今後、RM2抗原が予期しなかったついでに、予期せず臨床に役立ってほしいと祈っています。


※3D時代の抽出機

謝辞:RM2抗原発見の基になる学位のテーマを与えて頂いた福士康夫先生、RM2抗原の発見につながる留学の機会を頂いた折笠精一前教授、ひたすら組織から糖脂質を抽出する3D (dangerous, dirty, difficult)時代に協力してくれた大山力(弘前大学教授)、RM2抗体作成の抗原として使用したTOS-1細胞を樹立した佐藤信、構造決定に重要な役割を果たした伊藤明宏およびSteven B. Levery教授、Gleason gradeを含めた臨床的意義との関連を明らかにした前立腺全摘標本を提供して頂いた東京慈恵医科大学の頴川晋教授(RM2抗体作成からRM2抗原の構造決定にいたるまでのほぼ同じ時代の前立腺全摘術標本であることに、出会いの縁を感じます)、RM2抗原の前立腺癌における発見につながる前立腺癌研究へ導いて頂いた荒井陽一教授、研究全般を終始指導頂いた箱守仙一郎教授、その他、ご協力頂いた大勢の方々に感謝申し上げます。


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