東北大学病院 泌尿器科 外科病態学講座泌尿器科学分野

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帰国報告

海法 康裕

帰国です!
2年の留学期間があっという間に過ぎ、帰国となりました。最終回はこのコーナーの本来の目的であるアメリカでの研究の話であります(最終回にしてやっと・・・すみません)。

まず、研究施設ですが、ぼくの所属していた泌尿器研究部門はピッツバーグ大学病院の片隅にある小さな一区画にあります。排尿障害研究でピッツバーグは非常に有名で、大きな国際学会の排尿基礎研究セクションには毎年ここから何題もの演題が発表され、どんどん新しい研究が展開されております。・・・とは申しましても、研究室になにか特別秘密な設備があるわけでなく、まったく普通のどこにでもある施設で・・・、思うところ、ピッツバーグ大学泌尿器科はボス・Dr. Yoshimuraの頭のなかに展開する広大な研究施設といった感じであります。

ピッツで僕がいただいた研究テーマは尿失禁(おしっこのもれ)の基礎研究です。“おしっこが漏れるのは歳のせいだからねえ・・・”で済んでいたのは過去のことで、現在は立派な治療対象疾患であります。

実際にはラットに‘くしゃみ’をさせて、そのときに尿失禁防止のために尿道がどのように働くのか?を研究してきました。ラットのくしゃみ??そうです、ラットもくしゃみするのです(本当ですよ)。ラットからひげを一本いただいて、そのひげでそっと鼻腔を刺激すると、予想通りのかわいいくしゃみがおこります。くしゃみ時には、尿が漏れないように反射的に尿道が締まるという尿失禁防止機構があって、これがどんな薬にどのように反応するかを評価してその正体を突き詰めていくのです。

ラットにくしゃみさせている施設は現在のところ世界中でピッツバーグだけで、ラットにくしゃみさせて尿漏れの機序を考えているのはもちろん世界でボクだけ!!相当やり甲斐があって面白い研究でした。不満があるとすれば、ぼくは大真面目に実験しているのに、傍からはどう見てもラットと遊んでいるようにしか見えない(いつも楽しそうだねと、よく言われました・・・)。このくしゃみ誘発尿失禁の研究では、いままでの尿道機能の概念にはなかった、いわば‘能動的・積極的な尿失禁防止機構’を調べることができ、なんだかんだ苦労はしましたが、2年間でその失禁防止メカニズムの一部が解明できました(先日論文がアクセプトされました!The role of noradrenergic pathway…, Kaiho et al. Am J Physiol Renal Physiol. 2006 Oct 17)。この新しい尿失禁のメカニズムの解明が、将来的に新しい治療薬の開発の糸口となり、尿失禁の治療に役立てばいいなあ!と考えております。

日本では日々の臨床で患者さんと接しており、直接医療に貢献していることを実感できましたが、今回のアメリカ留学では、ひとつの医学研究をじっくり煮詰めていくといった、直接相手はみえないけれど、とても大きな事象を対象にしている!という、これまでとは違った形の医学への接し方を体験しました。日本で臨床しか知らなかったボクにとってこの経験はとても貴重なものであります。

最後になりましたが、このような機会をくださった荒井教授をはじめ医局関係者の皆様にとても感謝いたしております。ありがとうございました。


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