代表的疾患:小児泌尿器科
膀胱尿管逆流症 Vesicoureteral reflux (VUR)
尿は腎臓で生成され尿管を通って膀胱に流れ、尿道より排出されます。いったん膀胱にたまった尿は畜尿中も排尿中も尿管には逆流しないしくみが備わっています(逆流防止機構)。これに問題があると尿は膀胱から腎臓へ向かって逆流します。80-90%の患者さんは上部尿路感染症(腎臓に細菌が入り込み、激しい炎症を起こす)による高熱をきっかけとして発見されます。
VURの問題点は、
- 腎臓や尿管、膀胱の発生異常をともなう場合があること(先天性逆流性腎症、排尿異常)
- 上部尿路感染を繰り返すと、その都度入院治療が必要であるばかりでなく腎瘢痕(腎臓実質の障害)が生じてしまうこと
- 逆流が消失した後でも腎障害が進行し、腎不全や蛋白尿、高血圧をきたす症例があること(逆流性腎症) などがあげられます。VURは体の成長とともに自然に消失する傾向があるため、必ずしも手術が必要ではありません。
小児泌尿器科専門医に御相談下さい。
水腎症 Hydronephrosis
最近では、出生前の胎児超音波検査の精度が高まり、尿路(腎盂・尿管)に尿がたまって膨らんで見える水腎症などの腎尿路疾患が出生前にも診断されるようになってきました。腎臓からの尿の出口(腎盂尿管移行部)に先天的な構造の異常があって腎盂に尿がたまって見えるのを先天性水腎症Congenital hydronephrosis、尿管と膀胱の接合部に構造の異常があって腎盂・尿管に尿がたまって見えるのを巨大尿管症Megaureterと呼びます。いずれも腎機能を低下させる(閉塞性腎障害)可能性のある疾患であり、手術を必要とする場合がありますが、一方で腎障害を起こさず自然軽快する場合もあるため、小児泌尿器科専門医の診断を要します。
以上、腎臓の機能に関わる先天性腎尿路疾患の場合、早期に適切な腎機能の評価と、腎保護対策を考慮する必要があります。北米の大規模な調査によれば、20歳未満の小児?若年者に末期腎不全にいたる患者さんの原因疾患のうち2/3を泌尿器科疾患が占めるという結果が報告されました(1998年)。腎臓の組織は一度ダメージを受けるとけっして再生されません(肝臓は再生されます)。また、腎臓が障害を受けると残りの部分に負担がかかり、さらなる腎機能の低下をきたすことが知られています(糸球体過剰濾過説 Glomerular hyperfiltration theory)。腎臓が少しでも障害を受けないよう小児期から長期間にわたって慎重に見ていく必要があるのはこれらの理由によります。
停留精巣 Undescended testis, Cryptorchidism
精巣が陰嚢底部に十分下降していない場合をいいます。この疾患の問題点は、(1)将来精巣機能がそこなわれる可能性(不妊症)がある、(2)精巣腫瘍の発生頻度が高いといわれる、という点です。手術によってこれらの可能性をある程度低下させることができるといわれています。手術の時期としては、以前は学童期あるいは2-3歳頃にといわれていましたが、現在では1歳頃に行います。停留精巣でも生後6ヵ月までは自然下降する可能性があるといわれています。それ以降は自然下降はほとんど望めません。診断には腹腔鏡検査が有用であり、東北大学では1986年から腹腔鏡を導入し100例以上に施行してきました。
尿道下裂 Hypospadias
胎児期に尿道・陰茎・陰嚢が形成される段階で男性ホルモンの分泌異常あるいは組織の反応に異常があると、男性と女性の中間型の外性器の形態となります。尿道の出口が陰茎先端近くから、陰嚢部・会陰部までさまざまなタイプが見られます。この疾患の問題点は(1)陰茎の曲がりによって勃起障害が生じる、(2)中等度-高度の場合は立位で排尿ができない、(3)陰茎の形態が明らかに正常と異なるため、まわりの子ども達から指摘され、精神的ダメージを受ける、などです。この疾患は自然に治ることはあり得ませんので、手術が必要となりますが、技術的に非常に難易度の高い手術となり、小児泌尿器科専門医による診断・治療を必要とします。
夜尿症 Nocturnal enuresis
夜尿症は原因が多岐にわたる疾患であり(膀胱機能・神経異常、ホルモン分泌異常、泌尿器科疾患の合併、覚醒障害、心理的要因、自律神経異常、生活習慣の問題など),原因を特定して治療(薬物療法、おねしょブザー、電気刺激療法、生活指導、心理療法、コンサルティング)を進めていきます。とくに難治例は多数の科の関わりが必要となります。
包茎 Phimosis
小児は例外なく亀頭の部分が包皮により覆われています。成人になるにつれて30%位は亀頭が露出したままの形態になるといわれています。ふだんは包皮に覆われていても亀頭の部分が容易に露出できる場合を仮性包茎、包皮が狭くて亀頭がまったく露出できない場合を真性包茎といいます。しかし、小児はあわてて手術を行う必要はほとんど無く、年齢とともに自然に亀頭部が露出できる頻度が高くなります(10歳頃にもなると90%以上)。週刊誌などでは仮性包茎も悪玉であるように書き立て、男性読者の不安を煽っていますが、仮性包茎は手術を行う必要がありません。真性包茎に対しては手術が必要となります。
その他
代表的な頻度の高い疾患は以上ですが、その他に
などがあります。
最近では治療面において小児に対しても腹腔鏡検査や腹腔鏡手術が多く行われるようになってきました。
このように小児には非常に多岐にわたる泌尿器科疾患が存在するわけですが、当科では宮城県立こども病院泌尿器科と連携し小児泌尿器科疾患の患者様に対応しております。